「越のリゾット」開発物語
- 米ラボ
今回は、ケツトジャーナル初となるゲストライターによる記事です!
先日、社内で試食調理したパエリアリゾット専用米「越のリゾット」の開発者、福井県農業試験場・小林麻子様ご本人によるご寄稿です。小林様、ありがとうございました!
それでは、どうぞお楽しみください。
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今回は福井県農業試験場から、リゾット用新品種「越のリゾット」をご紹介します。
稲の交配は温湯除雄で
いきなりですが、イネの品種改良は、2つの品種の掛け合わせ=「交配」から始まります。
母親のイネのめしべに、父親のイネの花粉を振りかけるのですが、イネは花が咲いた瞬間に自分の花粉で受粉してしまうので、ちょっと工夫がいります。
それがこちら、「温湯除雄(おんとうじょゆう)」です。
43℃のお湯に7分間、母親のイネの穂をつけます。そうすると、花粉の働きは失われてしまいますが、めしべは生き残ります。そこに、父親の花粉を振りかけます。
10日ほどすると、二つのイネの子どもとなる種子が大きくなってきます。
「越のかおり」と「あきさかり」
「越のリゾット」の両親は、米麺用品種の「越のかおり」と福井県の多収品種「あきさかり」です。
2010年に福井県農業試験場で交配を行いました。
「越のかおり」と「あきさかり」は、お米の主成分であるデンプンの特徴が大きく異なっています。
「越のかおり」は、ご飯を炊くとパラパラになります。また、お米を半分に切ってアルカリ液につけても、デンプンが溶けません。茹でてもくっつかず、米麺に適したデンプンとなっています。
「あきさかり」は、もちもちネバネバのご飯となり、アルカリ液につけるとデンプンが溶け出します。
これらの性質はDNAで決まっています。
さて、これらの「越のかおり」と「あきさかり」の交配を行うと、両親の性質がさまざまに混ざった子どもたちがたくさん生まれてきます。
「越のかおり」のパラパラご飯遺伝子と、アルカリに溶けない遺伝子は、1本のDNA上につながっていて、普通はそのまま子供たちに伝わっていきます。
「あきさかり」のもちもちご飯遺伝子と、アルカリに溶ける遺伝子も同様です。
でも、ときどき、DNAが入れ替わって、「越のかおり」のパラパラご飯遺伝子と、「あきさかり」のアルカリに溶ける遺伝子をもった子どもが生まれてきます。
福井県農業試験場では、その2つの遺伝子が組み換わった子どもを選び出し、新種「越南300号」が生まれました。のちの「越のリゾット」です。
利用目的の模索
「越南300号」は、炊飯以外の調理に向く米を開発することを目的としていました。
そこで、まず炒飯を作ってみました。炒飯はパラパラにできたのですが、パラパラ過ぎてスプーンからこぼれてしまうほどでした。
また食感も硬すぎて、あまりおいしくありませんでした。
炒飯には不向きだった
その次に試してみたのがリゾットです。
イタリアのリゾット専用品種「カルナローリ」、「コシヒカリ」と一緒にリゾットを作ってみました。
その結果、「コシヒカリ」ではリゾットというよりはおじやになってしまったのですが、「越のリゾット」は、「カルナローリ」と同じように歯ごたえのあるアルデンテ食感となりました。
プロの料理人やシェフの方に「越のリゾット」でリゾットを作ってみていただいたところ、「おねばが出にくいことや,アルデンテ食感が持続することからリゾットに適している」との評価をいただきました。
また、ごはんソムリエからは「パエリアにするとスープをしっかり吸うだけでなく、アルデンテをしっかり保ちつつ、周りはほどよく粘りがある。甘み、旨味があり日本人の好むパエリアの味ができる」との評価もいただきました。
※越南300号=越のリゾット
こうして2020年、「越南300号」は「越のリゾット」と名を変え、福井県初の調理加工専用米としてデビューすることになりました。
「越のリゾット」の開発には、交配から10年かかったことになります。
「越のリゾット」は、「コシヒカリ」と比べて背が低いので、倒れにくく栽培しやすい品種です。また「コシヒカリ」よりたくさん収穫できますので、低コスト栽培にも向きます。
今、日本ではお米の消費量がどんどん減ってしまっています。
消費者の皆さまには「越のリゾット」を使った本格的なリゾットをお楽しみいただき、お米の消費量が少しでも増えることを願っています。
スペシャルゲストライター
福井県農業試験場 品種開発研究部
小林 麻子
1996年 京都大学大学院農学研究科修士課程修了。博士(農学/2009年 筑波大学)。
1999年より福井県農業試験場に勤務。専門は水稲育種で、主な研究テーマは「水稲の食味および玄米外観品質の遺伝的要因の解明。